en
May 23, 2023

P&G Academy Student Interview: Ryoko Yamaguchi, Representative Director, Will Co., Ltd.

P&G Academy受講生インタビュー

株式会社ウイル 代表取締役 山口陵子

 

ジェンダーギャップ指数は世界116位(※1)、日本企業全体の女性社長比率は8.2%(※2)と、日本の経営の世界はまだまだ男女平等にはほど遠い。日本の女性起業家が事業を拡大し、グローバルなサプライチェーンに参入する機会が十分にない現実を背景に、P&GジャパンとWEコネクト・インターナショナルは、2021年から毎年「P&G Academy for Women Entrepreneurs」(以下、P&Gアカデミー)を共同開催しています。

3年目となる今年は、2月にキックオフセッションを開催し、2カ月間にわたり、P&Gジャパンの経営陣をはじめとする各業界のリーダーが、リーダーシップ、マーケティングコミュニケーション、クオリティとインクルージョンの推進など、組織の成功や成長に役立つビジネススキルのヒントを提供するアカデミーとなります。
前回2回に引き続き、今回も昨年の参加者である女性経営者のインタビューをお届けします!

※1 2022年基準

※2 帝国データバンクの全国「女性社長」分析調査 2022

 株式会社ウイル代表取締役

山口 陵子氏

想定外の後継者になり「安心できる会社」を目指して20年

株式会社ウイルは、表面処理技術のひとつ、溶射(ようしゃ)を主事業としています。この溶射は、金属やセラミックスを溶かして吹付けることで、製品を腐食や摩耗から防ぐ皮膜をつける技術です。特にウイルは、錆びやすい海上の橋梁や、腐食環境にさらされるケミカルタンクなど、大きくて動かせないようなものでも、現地まで赴いて施工することを得意としています。社員は14人ですが、その他協力会社や下請け会社として一緒に働いてくださる方々がたくさんいます。

会社は私の父が創業しました。私自身は大学で文学部英米文学科に進み、その後は広島や東京で教育系の出版社や美容関連の仕事などに就いていたため、跡を継ぐことは考えていませんでした。ある時に父が肺炎を患い入院し、助かるかわからない危険な時に「わしが死んだら会社がつぶれる」と筆談で伝えられました。いざ会社に目を向けてみると、会社はお世辞にもうまくいっている状況ではありませんでした。父には大学までお金をかけてくれた感謝があったこと、また後継者がいるかどうかで銀行などの対応も変わってくるということも知り、ウイルに入社しました。その後2004年に社長になり、20年近く経営を務めています。

社長になった当時は、こうした製造業、建設業の女性社長といえば、社長であった旦那さんが亡くなられて跡を継ぐことになってしまった会社が多く、そうした突発的に跡を継いだ女性社長が経営する会社は弱い会社なのではないか?と思われる気がして、「女性社長」と言う事に引け目を感じていました。

実際に、「女性だからね」と後ろ指をさされることも度々ありました。岡山県には「おかやまものづくり女性中央会」という組織ができ、今では女性社長仲間が増えており、それぞれ経験した大変な境遇に共感し合っています。

「弱い会社」ではなく「安心できる会社」と思われるように努力してきて、大企業と付き合うことが増えると紳士的な方も多くいることがわかりました。女性経営者であることをむしろ面白いと思ってくださった方も多く、偏見を悪い方向だけでなく良い方向にも利用させてもらっています。

ブランディングにダイバーシティ、自分たちの常識を飛び越えた学び

経営者として勉強をする機会はありますが、どこか偏ってきてしまったり考え方が異なっていたりして、フラットに学ぶ機会が少なくなってきていました。自分たちの常識内におさまっていてはいけないと感じるようになり、大企業のブランディングを学びたいという思いからアカデミーに参加しました。

講義を通して、P&Gがブランドや商品のイメージを大切にしていることを学びました。例えばおむつの「パンパース」について、どんなに市場が赤ちゃん用おむつから大人用おむつへと変化しても「大人用パンパース」という名前では商品は出さない!それは、「パンパース」が、「赤ちゃんの健やかな成長を願う」というブランドコンセプトだから!という話など、理解しやすく感銘を受ける内容が多く、非常に勉強になりました。それまでウイルという会社をブランディングしなければと思っていましたが、ただネームバリューを高めるのではなく、社員のブランディングや、溶射技術のブランディングも大事だと考えるようになりました。ブランディングは一長一短にはいきませんが、製品や技術をひたすら売るだけでなく、媒体も通すことも考えるようになり、世の中でどのように認識してもらうかを常に意識しています。

またダイバーシティについての理解も深まりました。講義を聞いて、今の日本はダイバーシティの大切さはわかっているものの、受け入れる「インクルージョン」のスキルが足りないと気付きました。講師が話していた「イノベーションを起こすためには、どれだけインクルージョンできるかがキーになってくる」という内容が印象的です。

講師の飽きさせないプレゼン方法も参考になりました。講師が自らのパーソナルな話をすることがアイスブレイクになって、よりプレゼン内容にも興味をもちやすくなることを実感したので、人前で話す時には、オーディエンスの心を開くために自分からオープンにすることを心がけています。

今回はオンラインでの実施だったため、様々なオンラインツールを活用してその便利さを知る一方で、同期の皆さんにお会いしたかったという気持ちもあります。密にお互い知る機会があればと願っています。

P&Gアカデミーへの参加も女性だからこそのチャンス

 講義ではリーダーシップや多様性に関する話も多かったので、自分と同様に多くの関係者の働き方や安全性を考えなければならないような企業の代表や、社員数の多い製造業の代表の方に参考になるプログラムだと思い、Facebookでアカデミー三期生募集について紹介をしたところ、3名から申し込んだと報告がありました。

女性経営者はまだまだマイノリティで、場所や人によって大変なこともあると思いますが、色んなチャンスをゲットしてほしいと思います。このようなアカデミーに飛び込むことも、女性だからこそ得られるチャンスです。アカデミーに参加すると、同じような気持ちの仲間がいます。これから参加する方も、女性であることを誇りに思って一緒に前向きに日本で企業を経営できたら嬉しいです。

日本の伸びしろを信じて女性が認められる社会にしていきたい

自分も経営者としてまだまだ学びたいことがあります。例えば受講したタイミングでは、グローバル企業であるP&Gから見て日本市場は魅力的だというお話がありました。一方で、溶射業界のグローバル大会が日本で開かれた時には、出展企業が減っていたのを目の当たりにし、ショックを受けていました。刻々と変化している世界からの日本市場の見られ方を常に知りたいと思っています。

本当は経営者においても男女を区別したくありませんが、現状では政治と同様に企業においてもルールをつくる側にあまりにも女性が少ないため、女性であることが目立ってしまうのでしょう。私は溶射という狭い業界だからこそ、女性経営者であることを20年も前から受け入れてもらえたのだと思いますが、周りをみるとプラント関係や大手の企業は女性のリーダーが少なく、女性の視点が入ることで大きく変えられるものがあるのではないかと思っています。

一方で、少しずつですが自分の周りでは変化が起きています。今まで現場での仕事や着用する作業着はただ汚れる仕事をする丈夫な服とのイメージをもたれていたかもしれませんが、今は現場でかっこよくスマートに働きたいと思う人も多く、例えば作業着に岡山の代表的産業であるデニム生地を採用することなどが進んでいます。こうした変化は、性別を含め多様な視点が入り込むことで生まれる変化です。

女性が政治経済に進出することができていない分、それが叶うだけで日本はまだまだ改善の余地、大きな伸びしろがあると思っています。その伸びしろのひとつとして女性が進出するだけでなく、更に認められる社会になるよう、女性経営者として邁進しつつ、同じような思いをもってくれる人が増えるようになることを願っています。